ニュージーランド南島の北端に位置するネルソンは、人口約5万人※1の地方都市でありながら、豊かな自然と芸術文化に恵まれた街として知られている。タスマン湾に面し、近郊にはアベル・タスマン国立公園やワイナリー、クラフトマーケットなどが点在し、観光客にも人気が高い。年間を通じて晴天が多く、“サニー・ネルソン”の愛称でも親しまれている。
この街の空の玄関口がネルソン空港で、市街地から車で約10分というアクセスの良さを誇る。かつては草地の滑走路を持つ簡素な施設であったが、2019年に現在の新しいターミナルが建設され、木の温もりを感じるモダンな施設へと生まれ変わった。滑走路は1本(全長1,347m)で、主にターボプロップ機やリージョナルジェット機に対応しているが、その運用効率と整備状況により、国内幹線ネットワークの要所として機能している。
現在では年間91万5,600人※2が利用し、ニュージーランド国内でも中規模の地方空港として存在感を放っている。拠点航空会社であるサウンズ・エアやエア・ニュージーランドのリージョナル便が多く発着しており、ウェリントンやオークランド、クライストチャーチといった主要都市との接続を担っている。
さらに、2050年のゼロカーボン達成を目指す空港ビジョン「Project 2-Zero」※3が進行中であり、再生可能エネルギーの導入や電動航空機への対応準備など、持続可能な空港づくりに向けた取り組みが段階的に進められている。
地方都市の魅力と未来への視点を併せ持つ、2024年12月のネルソン空港をレポートする。
※1 Stats NZ 2023年国勢調査 – Nelson City
※2 Nelson Airport Ltd Annual Report 2024
※3 Project 2-Zero: Nelson Airport Sustainability Plan
空港概要
ニュージーランド・ネルソン空港 -Nelson Airport-
ストレスゼロの空旅体験
ネルソン空港の第一印象は「使いやすさ」である。チェックインカウンターから搭乗ゲートまでの距離が近く、全体の動線が非常にコンパクトにまとまっている。空港ターミナルの中央に広がる共用スペースは、一目で全体を見渡せるつくりで、初めて訪れる旅行者でも迷うことがない。
さらに特筆すべきは、地方路線のみを扱うため多くの便で保安検査が設けられていない点である。手荷物検査場を通過する必要がないため、搭乗までのプロセスが驚くほど簡素でスムーズであり、まるで鉄道に乗るかのような感覚で飛行機に乗ることができる。この手軽さは、利用者にとって心理的なハードルを下げ、空の移動をより身近なものとしている。
搭乗客数の多い時間帯でも混雑は比較的少なく、時間に追われるストレスとは無縁の旅が体験できる。この利便性の高さは、地方空港だからこそ実現可能な強みであり、空港本来の機能美が感じられる空間となっている。


伝統とデザインが響き合う、美しき木造ターミナル
近年リニューアルされたネルソン空港のターミナルは、木材をふんだんに使用した建築が特徴的である。天井や壁面、家具に至るまで地元産の木材が活用されており、自然のぬくもりが空間全体に広がっている。特に印象的なのは、曲線を描く木の梁が天井を支える設計で、機能とデザインが調和した美しい空間演出が施されている。
この木造建築は、ネルソン周辺の林業や木工芸の伝統ともつながっており、空港が地域の文化や産業を体現する場となっていることがうかがえる。また、自然光を取り入れる大きな窓や広々としたロビー空間が、利用者に開放感と安心感を与えている。


ネルソンの心が息づく小さな空の玄関口
ネルソン空港を訪れて感じるのは、ただの交通施設ではなく、「街の玄関口」としての役割を丁寧に果たしている点である。空港内のカフェやギフトショップでは地元アーティストの作品やクラフトビールが並び、待ち時間すらもこの地域らしさを味わえる時間となっている。
スタッフの対応も親しみやすく、訪れる人々にとって“Welcome”の精神が感じられる。これは、アーティストや職人、自然愛好家が多く暮らすネルソンという街の気質が、空港という空間にも自然と滲み出ているからだろう。
そうした空気に包まれて出発するとき、ふと「また来たい」と思わせてくれる――ネルソン空港にはそんな静かな力が宿っている。地方空港という枠を超え、地域の個性を優しく伝える装置として、ネルソン空港は小さな規模ながら確かな魅力を放っている。都市型空港とは異なる“空気感”を大切にした空港運営のあり方が、ここには息づいている。













